Columns|コラムシリーズ10【ものづくりに見る価値の創造】全10回
第8回 ものづくりのプロセス
数回にわたってものづくりをする上での役割分担についてお話してきました。役割がわかったところで今度はものづくりを進めるプロセスについてご紹介したいと思います。
ここでご紹介するプロセスは私の経験を元にしているので、どこの企業でも同じというわけではないのですが、エッセンスがお伝えできればと思います。
特に今となっては3Dプリンターの発達などもあり、大幅に時間短縮が図られているプロセスもあります。
私が経験してきたものづくりの基本プロセスは以下の通りです。
1 新商品計画
2 設計構想確認
3 量産構想確認
4 生産導入確認
5 1stロット出荷確認
最後の“1stロット出荷確認”で合格がでて初めてお客様に出荷されます。これまでのご紹介した“縦軸”の流れに当てはめると責任区分が“開発”から“設計”に移行するのが「1 新商品計画」です。
「2 設計構想確認」「3 量産構想確認」は“設計”の中で行われます。「3 量産構想確認」で合格判定がでるとここから“製造”が協力できるようになります。
そして「4 生産導入確認」で合格判定がでると責任区分が“設計”から“製造”に移行されます。最初に量産された1stロットの品質が「5 1stロット出荷確認」で合格するとめでたく販売会社の倉庫にむけて商品が出荷されます。
では、それぞれのプロセスをもう少し細かく見ていきましょう。
1 新商品計画
開発された技術あるいは既存の技術を使って新しい商品を提案し商品化の判定をすることを目的としたプロセスです。
マーケティング的見地から市場の有望性と提案商品の優位性が
セールス的見地から顧客層とその規模が
アカウンティング的見地から収益性が
エンジニアリング的見地から技術の裏付けと実現性が
プロジェクトリーダーから担当メンバーとその役割がそれぞれ報告があり“設計”責任者が判定の決裁責任を有します。まさに「商品化」にGOをかけるかどうか、という大切なステップです。
2 設計構想確認
商品化を実現するための大枠の仕様を固めることを目的としたステップです。
特に後から変更をかけにくい部品、例えば材料とか、変更コストが高いあるいは変更に長い時間を必要とする部品、 また変更することによって他の仕様への影響が大きい基幹部品などは、このステップでほぼ仕様を決定します。
また商品化で目指す性能は実現できる目処をたてます。試作品を少量作り、データをとると、大きなばらつきがあって性能を満たすものと満たさないものが存在しているそんな完成レベルです。
3 量産構想確認
今までは少量の試作をする程度でよかったのですが製造所の設備を使って数多く製品をつくる(これを量産といいます)ために設計仕様をほぼ固めることを目的としたステップです。
この確認がされると次は製造所で量産をします。量産の体制もこの段階で用意されます。“設計”と“製造”が協力をして工程内容を決め製造するための設備の準備を進めていくのです。
部品は大量に発注されるし、製造所の準備も整っていくので設計変更の波及する影響がより大きくなります。なので、この段階で設計仕様を固める必要があるのです。
安全規格とか不要輻射といった遵守すべき規格はこの段階でクリアできる目処をたてます。設計構想確認のときよりも性能のばらつきは小さくなっていますが まだ試作品のレベルなのでばらつきはもっと改善できる余地がある、そんな完成レベルです。
4 生産導入確認
“設計”から“製造”へ責任区分が移行されるステップで、今後“製造”が責任もって量産及び出荷できる体制を整えることが目的です。
実際に製造所の設備、人員、インフラを使って本来の量産と同じように製造しますので、性能を実現するのは当然のこと、そのばらつきもぐっと小さくなり推定不良率が期待値以下であるくらいの完成レベルになります。
設計の役割も最後なので怒涛の追い込みです。私が設計の時はこの生産導入確認の会議前は数日ほぼ徹夜でした。
5 1stロット出荷確認
責任区分が移行された“製造”が自分たちの力で期待通りの品質、コスト、デリバリーを実現できることを確認することが目的です。
「4 生産導入確認」で設計仕様は固まりました。あと品質、コストを左右するのは“製造”の要素です。ここまでくるとぐっと性能のばらつきが小さくなります。
1日でも早く販売をしたい“販売”チームはこの日を手ぐすね引いて待っています。最初の出荷は空っぽの倉庫を満たすために通常流通する量より多い数量となります。
たとえば月に1万台流通する商品で在庫基準が1ヶ月とすると最初は2ヶ月分の生産量が必要になるのです。
この後は安定して生産を続けることになります。
扱う商品によってプロセスの重要度、期間、費用などはまちまちです。ただものづくりは一旦形にするのに時間と費用がかかるため、 できるだけ立ち戻らないようにプロセスごとの確認を大切にしています。このあたりは次回お話したいと思います。